先日、MotoGPのプレシーズンテストがカタールの
ロサイル・インターナショナル・サーキットで実施されましたが、
テストでの最高速はアルマ・プラマック・レーシングの
ジャック・ミラー#43が記録した355km/hでした。
ミラーによるとAGVのヘルメットとDAINESEのレーシングスーツが、
空力上有利に働いたことが要因なようです。
ヘルメットの空力性能は最高速にも影響を及ぼす要素になります。
なおミラーは先日の記事で紹介した通り、
AGVのヘルメットとDAINESEのレーシングスーツを使用しています。
AGVはDAINESEの傘下であることから、DAINESEに最適化したヘルメットであることは容易に想像できます。
逆にDAINEZEもレーシングスーツの形状(ハンプ等)をAGVに合わせている、といったこともあると思います。
ハンプについてはこちらの記事で解説していますの、よかったら読んでみてください。
とは言うものの、一般ライダーが法定速度で走行しているだけでは、
なかなか感じにくいのも空力性能の特徴だと考えます。
そこで本記事ではヘルメットの空力性能について解説させて頂きます。
ヘルメットの空力性能について興味がある方や、
ヘルメットの購入を検討されている方は是非読んでみてください。
目次
ヘルメットの空力性能とは
ヘルメットの空力性能を考える上で重要なキーワードが2つあります。
それは「前面投影面積」と「境界性剥離」です。
2点について説明したいと思います。
前面投影面積
前面投影面積とは、その名の通り前から見たヘルメットの大きさです。
単純に小さければそれだけ抵抗が減るので、空力としては向上します。
空気抵抗は速度の二乗に比例することから、
前面投影面積を小さくすると最高速に向けて大きな差となります。
ただし安全性とトレードオフなところもありますし、
前面投影面積を小さくするのは限界まで来ているとも思います。
境界層剥離
境界層剥離を怒られそうなくらい簡単に説明します。
ヘルメット周辺の空気はその外側より遅く流れており、
この外側とヘルメット周辺の圧力のギャップにより、空気の逆流が発生することです。
要するに綺麗に風が流れないため抵抗になっていまうことです。
この現象に留意されていなければ、走行中の振れやリフト(浮かせる力)が発生しやすくなります。
実際の実験
空力性能のどのように作り込まれているいるかというと、
「解析」と「風洞実験」になります。
解析はPC上で計算しシミュレーションを行うことです。
一見簡単に思えますが非常に難しいです。
空気やヘルメットの表面性状のパラメータ決定や、
現実との乖離を補正する係数の設定等、メーカーのノウハウが詰まっている部分だからです。
風洞実験は実物(もしくはスケールモデル)に風を当て、
実際の空気の流れを確認する実験になります。
大型の設備だと300km/h以上の走行を再現することも可能です。
▼Team SUZUKI ECSTARの風洞実験動画
ヘルメットメーカーにも風洞設備はありますが、
MotoGPに参戦している各メーカーは風洞設備を用い、カウルの設計を行っていることから、
ヘルメットに関する要望があれば、ヘルメットメーカーへフィードバックされます。
MotoGPライダーにヘルメットを供給することは、そういった開発のアドバンテージにもなります。
ライダーへの恩恵
ヘルメットの空力性能は、一定以上の流速で空気が流れていないと感じにくい点もあります。
したがって体感するには高速道路やバイパス、サーキットに行く必要があります。
具体的に体感できる点としては、
「直進時の振れ」、「左右/後方確認時の振れ」、「風切り音」、
「ベンチレーションの効果」があります。
直進時にヘルメットが振られてしまうと、長距離運転時の疲労が増します。
直進時の安定性が良くても、公道では四方八方から風も来ますし、
後方確認もそれなりの回数必要になるため、直進以外での振れの有無も重要です。
また一般ライダーでも分かりやすい風切り音ですが、
空気が綺麗に流れていれば基本的には音は小さくなるはずです。
快適性に影響しますし、無視できないポイントだと思います。
ベンチレーションの目的は、ヘルメット内部に空気を取り込むことと、
ヘルメット内部の空気を排出することです。
空気の流れがスムーズでないと、排出が適切にされず、
快適性に影響が出てしまいます。
まとめ
本記事ではヘルメットの空力性能について解説させて頂きました。
実際のところ比較する機会があるライダーがそんなに多くないと思いますが、
グレード差の大きいヘルメットで比較すると、鈍感な人でも絶対に分かる差があります。
近年でレーサーが被るモデルは当たり前のようにエアロパーツが付き、前後方向に長くなっています。
そしてそれが市販品にフィードバックされています。
空力は目に見えないですし、安全性のように比較(SHARP)もないので評価が難しいですが、
ヘルメット選びの要素として、今後影響度を増してくるように感じています。
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